ドイツのケルンで誕生したリモワ(RIMOWA)は、単なるスーツケースブランドではない。多くの人がその象徴的な「アルミボディ」と「リブ(縦溝)デザイン」に惹かれるが、その背後にある哲学は、実は「時間をどう旅するか」という問いに根ざしている。
リモワの製品を手に取るとまず感じるのは、冷たくも確かな手触りだ。アルミニウムやポリカーボネートといった素材は、軽さや強度だけでなく、「使いながら育つ」特性を持つ。表面に刻まれる傷や凹みは欠点ではなく、旅の記憶の層となる。新品の美しさよりも、使い込まれた時に生まれる味わいを美とする――それがリモワの時間感覚だ。
創業当時、リモワは木製のトランクを製造していた。だが1930年代、創業者の息子リヒャルト・モルシェックが、航空機の素材であるジュラルミンに着目したことが転機となる。金属の輝きを放つ新しいスーツケースは、まるで「空を旅するために生まれた箱」だった。その後、航空輸送の普及とともにリモワは進化を続け、旅そのものの象徴へと成長していった。
今日、リモワが他のブランドと一線を画すのは、“堅牢さ”だけではない。内部の設計にまで及ぶ精密な構造美、ハンドルの可動域やホイールの滑らかさ、そして数ミリ単位で調整されたロック機構。そこには「道具として完璧であること」と同時に「所有する喜び」を追求する姿勢がある。ドイツ的な合理主義と、人間的な感性が見事に融合しているのだ。
また、リモワは時代の変化にも柔軟だ。ルイ・ヴィトンを擁するLVMHグループの傘下に入って以降、デザインの幅を広げながらも、ブランドの核を手放さない。SupremeやDiorとのコラボレーションでは、スーツケースという「機能の象徴」を、文化のキャンバスへと昇華させた。ファッションやアートと交わることで、「旅」という概念をさらに広義に拡張している。
それでも、リモワの根底に流れるのは「長く使うこと」への美学だ。修理可能な構造、交換パーツの提供、そして世界中に設けられたアフターサービス拠点。そこには“消費”ではなく“継続”を選ぶ思想が宿る。最新のテクノロジーとともに歩みながら、使い手と共に年を重ねる――リモワは、単なる旅行道具ではなく、人生の相棒なのだ。
旅の途中で刻まれる一つひとつの傷が、自分だけの物語を語る。リモワは、その物語を静かに受け止めながら、次の旅へと背中を押してくれる。
それは、モノが時間を超えて“思い出の器”になる瞬間である。

スーツケースでオリジナリティーを出すのも醍醐味です。
