自由ヶ丘のモンクレールマダム

自由ヶ丘のリラクゼーションサロンで働いていたころのお話。
現在は自身のサロンを経営している私だが、当時はまだ20代の見習いセラピスト。電車で20分かけて大田区の小さいマンションから通っていた。セラピストとしての雀の涙ほどの月給は、都内の高い家賃と奨学金の返済で消えていて、ファッションにお金をかける余裕などなかった。家と職場の往復の毎日で、オシャレな服を着たいという願望も薄かったと思う。
自由ヶ丘という土地柄か、働いているサロンに通うお客様は、上品な服装の40代~50代のマダムが大半を締めていた。

施術中にお話をしていても、ご自身で会社を経営していたり、旦那さんが社長だったり、裕福な方ばかりだった。

そんなお客様の服装で、冬になるとよく目にしたのが「モンクレール」のダウンコートだった。当時、サロンの先輩に「これね、10万は下らないのよ。扱いにじゅうぶん気を付けてね。」と聞き、驚いたものだった。

「ただのシンプルな黒いダウンじゃない、某ファストファッションブランドと何が違うの?」と最初は心の中で思った。

サロンでは施術前、コートを預かりハンガーにかけるのだが、何度も「モンクレール」のダウンコートに触れるうちに、その品質の良さを肌で実感していった。ブランドロゴが大きくあしらわれているわけではない、派手な装飾も無い、だからこその上品さを感じた。そして、そのコートを身にまとって来店されるお客様は、皆それをとてもよく着こなしていた印象がある。

当時、自身のファッションに興味のなかった私だが、「こういう服が似合う女性になりたいなあ」と漠然と憧れたものだった。将来の独立を夢見ていた私は、会社経営をしているとあるお客様に良くアドバイスをいただいていたが、その方も「モンクレール」の黒のロングコートを格好良く着こなしていた。
時は経ち、独立して小さなサロンを経営するようになった私。残念ながらまだモンクレールのコートは購入できていない。いつか、袖を通すに見合う女性になったら、その時には自身のお金で購入したいと思う。